今回ご紹介するのは、伝統食の干し芋をカジュアルに変身させた人気の焼き菓子「ひがしやま。」少子高齢化が加速して、ここ四万十にも食べる人も作る人も年々減っている地方の伝統があります。

じつは今、一見可愛らしいこのお菓子が、薄れゆく地域の伝統を次世代にバトンタッチしようとしているのです。

伝統おやつ「東山」

着色料なし!自然のエネルギーたっぷりの干しただけの東山

東山は、晩秋に収穫した芋を4~5時間ほど炊き、冬の寒空の下2~3週間かけてじっくりと干して作る伝統の干し芋。子供の頃はこれを、祖父母がストーブで焙っておやつに与えてくれ、兄弟と奪い合って食べたものでした。

私はこの東山が本当に好物で、抜け駆けしてこっそり食べようとすると、そんな時に限ってうっかり焦がしてしまい、その匂いでたちまち家中にバレるという、絵にかいたような思い出が蘇ってきました(笑)

でも、こんな風に思い出としてふと懐かしく蘇ってくるあたりが、食文化として歴史を感じるところだとしみじみ感じます。今でこそ食べなくなった反抗期の我が娘にも、幼少期のおやつとして重宝したものです。

原料からして珍しい

原料は『人参芋』と呼ばれるサツマイモの仲間で、火を通すと人参のような鮮やかなオレンジ色となり、甘くてねっとりとした食感が特徴です。

人参芋は、私達がよく目にしてよく食べる一般的なサツマイモの、「金時」や「紅はるか」とは異なる品種なのです。

人参芋の畑に行くも、葉や蔓を見ただけでは違いが分からず。

植え付けは、5月下旬~6月上旬。そして収穫は、10月下旬~11月上旬のたった1週間たらず。

収穫したばかりは特に水分が多いので、納屋などでしばらく寝かせると甘さものります。

収穫した状態になると、一般的なサツマイモより皮がピンクっぽいのが特徴

なんと珍しいのは見た目だけでなく、なぜかこの芋は、煮たり・揚げたり・焼いたりする事はせず、昔から干し芋オンリー。今回の取材の一環でベテラン農家さんに聞いてみても、

「さぁ?なしじゃろのぉー?考えたこともなかったけんど、昔から干し芋にするのぉ。まぁ、その方が美味いけんじゃないか(笑)」

と、想像した通りの答えが帰って来たので思わず笑ってしまいました。

つまり、とっても甘いのに水分が多く、干した方が美味しいという先人の知恵だったに違いありません。

※干すことを方言で「ひがす」と呼んでいたことから、「干菓子山」でひがしやまや東山と呼ばれてきたそうですが、高知県西部を中心に産地が点在しており由来は諸説あります。

いも焼き菓子をカジュアルに

人参芋の生産者と四万十ドラマとの出逢いは、今から10年前。きっかけは、後継者不足に悩む生産者から「この人参芋栽培と伝統食を途絶えさせたくない」という相談によるものでした。

そのプロジェクトは高知県の農業振興センターとも連携し、次世代へ繋ぐ農業となるよう産地化にも取組んでいく事に。

【四万十に点在する生産者が、改めて想いを一つに集結した2019年の様子。】

何度も畑に出向き、何度も試作を重ね、干し芋としてしか需要がなかった人参芋を「スイートポテト」としてアレンジし、幅広く消費者に届くよう商品化しました。

見た目や食感などを干し芋の東山を模して、人参芋自体の甘さを生かしてお砂糖は3割程度。バター・卵などを加えてオーブンで焼き上げるのですが、その作業の大半はまだまだ手作業。一枚一枚想いを込めて、ここにも生産者の想いを引き継ぎます。

スイートポテト風の焼き菓子「ひがしやま。」の製造現場

いも焼き菓子ひがしやま。のパッケージ

頼もしい地域の後継者

そして今回畑にお邪魔したのは、大正地域の若き後継者である新谷晃永(しんたに こうえい)さん。20年前に卯Uターン就農した父親の隆さんと共に、ひがしやま・ケール・里芋などを栽培しています。

高校を卒業して、ゲーム関係の専門学校に進学するも中退して地元に帰ってきたという新谷さん。

『実家に帰ってもしばらくは何もする気になれなくて、ブラブラしよったがですよ。でも、何かせないかんと思って、何となく父の手伝いで農業を初めたんです(笑)苦しいこともあるけど、あっという間に8年経ちました。』

実は新谷さん、いも焼き菓子「ひがしやま。」の原料を供給するのは今年が初。

もともと干し芋の東山を独自のルートで販売しており、栽培期間中農薬や化学肥料を使わずてまひまかけた栽培方法は、他の仲間と志を同じくした新メンバーなのです。

数年前の長雨で大打撃を受けた経験から、もしものためにストックしている種芋をみせてもらいました。

貴重な種イモを割ってみせて頂くと、断面から力強くデンプンが!

ベテラン農家と地域の若手後継者

四万十川を中心に豊かな土地と自然の広がるこの地、伝統食と新しい食べ方を融合させた『ひがしやま。』が、この先何世代もこの景色を繋ぎ続ける商品となるよう願うばかりです。