四万十川だから育める!香り豊かな「天然アユ」の魅力とは?

今年の梅雨は一段と早くやってきました。高知県は降水量が多く、気温も高くなるので梅雨時はムシムシとした暑い日が続きます。洗濯物は乾かないし濡れるし、この時期が苦手な人も多いと思いますが、悪いことばかりではありません。
この時期が旬となる美味しい川魚が捕れる様になります。それは「 アユ 」です。
四万十川では例年6月1日から本流・支流のアユ漁が解禁されます。この日を楽しみにしていた釣り人は、早朝からアユ釣りを楽しんでいるようです。初日から順調な人で約50~70尾ほど釣れたそうで、良い滑り出しではないでしょうか。
アユは他の川魚とは違い、独特な爽やかな香りを身にまとっています。昔からその香りに魅せられた人々は、和歌を詠んだり高級魚として食してきました。
今回は、四万十川で捕れるアユなどの天然の幸を全国に届けている「四万十郷」松下充宏さんに、その魅力や美味しさの理由について伺いました。
四万十川だからこそ育つ、天然アユの旨さ
「四万十郷」は四万十町の十和地区にあります。全長196kmにも及ぶ四万十川の中流域に位置する十和地区は、川と人の生活が密接に関わっている場所です。栗などの農作物はもちろん、四万十川で捕れる天然のアユは昔から有名で、大きな料亭で出される事もあるほど、香りや味、見た目は一級品です。
アユは一年中川にいるのではなく、稚魚の内は海で育ちます。春になって水温が上がると川を上り、秋の産卵に備えて栄養を蓄えます。そして秋になり、豪雨などで川が増水するのをきっかけに、集団で川を下り始めるそうです。そして、下流で産卵をすると、その命を終えます。
四万十川以外にもアユで有名な場所は沢山ありますが、ここで捕れるアユは他のアユとどう違うのでしょうか?
「水が綺麗っていうのは一番大事ながやけど、川底に砂利がある所はいい川苔が育ちやすいがよ。そんで、そこで育つアユも香りのえいアユが多い」
「砂利?」と疑問符を浮かべたのですが、理由を聞いて納得しました。
魚を水槽で買う場合、砂利が入っているのを見た事がありますか?砂利を入れると、魚の排泄物や食べ残しの餌が砂利の下に沈み込むので、水質を保つ事ができます。
それが川でも起こっていて、砂利の多い箇所は水の透明度が高く、川底に太陽光が届きやすくなります。砂利のおかげで汚れがほとんど浮遊しないので、川苔に付着しにくくなり、その綺麗な川苔が育ちます。それをアユが食べると、香りが一層強くなり、味も濃くなるそうです。
松下さんが子供だった頃より今は、2mほど川底が削れているそうですが、漁をする中流域は比較的砂利が残っているため、香りの良いアユが捕れるそうです。
逆に砂利が流されてしまい、岩盤がむき出しになっているような所では、川苔に付着した汚れをアユが食べる事になるので、臭みが強い事があります。なので、毎年漁をする場所は限定して漁をしているそうです。
アユが捕れる期間は6月1日~10月15日の約4ヶ月間です。先程もご紹介したように、この時期アユは、秋の産卵に向けて栄養を蓄えます。激流をいくつも乗り越えてきたその身は引き締まっており、脂も乗っています。
お盆を過ぎた8月半ばから10月が一番忙しいそうで、多い時は約20隻の川船が漁に出ます。漁をする時間は夕方~夜の11時頃、または夜中の2時~夜明けという真っ暗な時間です。
何故、暗い時間のみに漁をするのかと言うと、【火振り漁】という四万十川流域伝統の漁法で捕っているからです。
この方法は日が暮れた後、網を川に仕掛けてから船の上で松明を豪快に振りまわし、その光に驚いて逃げるアユを網に追い込む漁法です。
今でこそ松明を使用して火振り漁を行う方は少なくなりましたが、今でもシーズンになると船上から投光器の光でアユを追い込む光景は初夏の風物詩といえます。
これは松明を使った火振り漁の画像ですが、現在はライトを使うことが主流となっています。
網にかかった大量のアユは、鮮度が落ちないように素早く外していきます。それから約1時間以内に加工場へ運び、真空包装して-60℃で冷凍します。暗い時間は水温が下がっているので、加工するまでアユの鮮度を保つ事ができるそうです。
アユの加工で捌く作業や、お父様が切り盛りしている温泉旅館で松下さんが料理を提供する事があるそうで、どこかの料亭で修行をしたのか聞いてみると。
「いやいや!捌くのも料理も全部、自分で覚えたがよ。やき師匠とかはおらんで」
と言うので、びっくり! やるとなったら自分で調べて学ぶ。とても大切な姿勢を教えてもらいました。
四万十郷でアユは一夜干しやうるかに加工されています。るアユの一夜干しとうるかについてご紹介します! どちらもオール四万十町産で作られており、添加物などは一切使用していません。自然のアユの味を堪能できる逸品となっています。
アユの一夜干し
一夜干しは、朝捕れのアユだけを使用して作られています。松下さんにその理由を伺うと。
「朝捕れるアユは夜に捕るアユと比べたら、排泄物が体内にほとんど残ってないがよ。朝捕ったアユの方が臭みも減っちゅうき、一夜干しにした時に美味しく仕上がるね」
鮮度を保つ事はもちろん、アユを開きにして干す時は身が硬くなりすぎないよう、注意しながら天日干ししています。
お店などで売られている干物を、思い出していただくと分かると思いますが、干物は水分を飛ばしている分、身が硬くなっていますよね。程よい水分を残して熟成させる一夜干しは、生の食感に近い柔らかさが残り、旨味がぎゅっと凝縮されるそうです。
また、一夜干しは四万十町産の天日塩「山塩小僧」のみを使用し、薄塩仕立てで作っています。山塩小僧は山の上に立てられたハウスに海水を運び、時間を掛けて作られます。市販の塩と違い、海由来のミネラルが豊富に含まれているので、一舐めすると塩辛いというより、ほんのりとした甘みを感じられます。
この開きにしたアユの表面に、白い粒上のものがあるのが見えますか?これが天日塩の結晶です。天日干しが終わった後は身に浸透しているので、ほとんど見えなくなります。この山塩小僧の塩本来の味が、アユの風味を引き立ててくれています。
焼き方
取材の後、一夜干しはどう焼こうかな~と思いながら帰っていると、松下さんから電話が掛かってきました。
「一番大事なこと言うの忘れちょった! アユの一夜干しを美味しく食べる焼き方があるがよ!」と、一夜干しを最高の状態で食べられる焼き方を教わったので、ここでご紹介します!
<フライパンで焼く場合>
①フライパンにオリーブオイルを垂らし、全体に薄く広げます。
②フライパンを温めたら、身の方を下にして中火で約7分目ほど(時間ではなく、焼き加減です)、黄金色の焼き目が付くまで焼いていきます。
③いい感じに焦げ目が付いたら、次は皮の方を約3分目(時間ではなく、焼き加減ですよ)ほど焼いていきます。この時、皮は黒く焦がさないように注意しましょう。焦げると苦くなって、美味しさを損なってしまいます。
④皮の方にも黄金色の焼色が付いたら完成です!
焼き上がったら、最初の一口目はぜひ、何もつけずに食べてみてください。口に入れた瞬間、アユの香りと絶妙な塩加減を感じ、幸せな気持ちになれます。
私はそのままの塩味で十分美味しいと思ったので、他に調味料を足すことなくご飯と一緒に頂きました。アユの骨はそんなに硬くないので、抵抗の無い方は頭からまるっと食べていいそうです。
極上の珍味 アユうるか
さて、題名にある「うるか」ですが、あなたはご存知でしょうか? お酒をよく飲む人はご存知かもしれません。「うるか」というのは、アユの内蔵を使った塩辛の事を言うそうです。
私はこの取材で初めてうるかを知ったのですが、昔からアユの捕れる地域などでは、よく作られていたといいます。昔は今ほど保存技術が発達していなかったので、塩を大量に入れて作っており、塩辛い味だったそうです。
しかし、それではアユの独特のが感じられない。そう思った松下さんは、一夜干しでも紹介した「山塩小僧」のみを使い薄塩仕立てにしています。
アユの苦味・風味・香りを際立たせるには鮮度が命だそうで、こちらも一夜干しと同じく、朝捕れのアユを使います。素早く捌いて内蔵を取り出し、塩と一緒に瓶へ詰め、1~2週間熟成させます。一瓶につき50グラムなので、少ない!と思うかもしれませんが、この50グラムの内蔵を取り出すのに約10匹前後のアユを使うので、とても希少品なんです。
うるかの味は苦味の良さが分かる大人の味をしていますが、アユ独特の香りが口に入れた瞬間に広がり、ご飯や日本酒がよく進みます。また、ナスのうるか煮や、チーズなどと合わせてパスタソースにするという食べ方もあります。ぜひお試しください!
実は松下さん、四万十郷以外にも自動車整備会社や建設会社、温泉旅館などを経営しながら漁を行っています。多岐に渡る経営をしながらなぜ、漁をしようと思ったのか伺いました。
「この場所に住む人にとっては天然のアユは身近なもんやけど、都会に住んじゅう人からしたら違うやろ? その人らぁに『四万十町のアユはこんなにも美味いがで!』っていうのを知ってほしかったがよ」
『小さな頃から慣れ親しんだ四万十川の、天然の恵みや良さを知ってほしい』そんな想いがあり、四万十郷を立ち上げた松下さん。
最後に、これからどの様な事に取り組みたいか尋ねました。
「うちで扱いゆうアユは、自分らぁで捕ったのと、信頼しちゅう漁師さんが捕った分しか使いやせんき、鮮度も香りも抜群ながよ。やき今まで通り、この四万十川で捕れる天然のアユを全国の人に知っていってもらいたいね」