こんにちは!
最近一眼レフカメラのレンズを新しく購入し、自然風景を撮影して回ることが楽しくて仕方ない、ライターです!とても早い梅雨を迎え、いつもなら雨ばかりで憂鬱な季節。今年はカメラをかまえて色々な景色を撮影できるのが楽しいので、趣味1つでこれほど変わるのかと自分でも驚いています。

さて、以前記事でご紹介した「十和地区の鍛冶屋」ですが、皆さまもうご覧になりましたか?
【雄大な山に響く金属音~十和の鍛冶屋さん~】
取材させていただいた松村さんのお話の中で触れていた、お弟子さんである菊池さんご夫婦を今回取材させていただきました!

菊池さんご夫婦。二人三脚でモノづくりをしています。

地域おこし協力隊として2015年に四万十町へ移住した、神奈川県出身の菊池 祐(きくちゆう)さん、未来(みき)さんご夫妻。

なぜ四万十町十和だったのか

3代目は熱すぎる「よそ者」

十和地区に1件のみとなってしまった鍛冶屋の技術を学び、後世に伝える。この十和地区では4件あった鍛冶屋のうち3件がここ数十年で廃業になり、四万十町役場は伝統技術を継承する後継者を募集しました。その任期は3年。

3年間松村のオンチャンの下で土州勝秀鍛冶屋のイロハを教わり、任期を終えるころには町内に自らの工房を建て、現在も修行を続けながら日々製造に打ち込んでいます。

菊池さんは鍛冶屋という職業にずっとなりたかったそうで、地元に鍛冶屋があったわけでもなく、親戚が鍛冶屋というわけでもなく、完全に一からの勉強だったそうです。そんな中タイミングよく四万十町の募集があり応募しました。

「鍛冶屋の技術だけではなく松村さんの考え方も学びたい。」
伝統的なものや古くからあるものは、その技術だけではなくそれに関わる人たちの考え方を知ることが何よりも重要なんじゃないかと教えて頂きました。

勝秀鍛冶屋の鉈(ナタ)の特徴

いよいよ鉈の作業工程を見せてもらえることに!

勝秀鍛冶屋では刃の部分のみを作っているわけではありません!刃を制作後次の工程は、その刃にピッタリ合う柄(え)や鞘(さや)づくりへと移り、銘切り、最後の仕上げまですべてを1か所で行います。

今ではこんな鍛冶屋は全国的に少なくなっているそうで、奥さまいわく「絶滅危惧種といってもいいくらい古いやり方をしている。」んだそう。

お師匠様である松村のオンチャンと菊池さんとで2軒、十和には絶滅危惧種がいることになりますね!

昔と比べて、生産体制が大量生産へと変わり、より多くの品を沢山売るという時代へと変化してきました。そんな時代の中で多くの鍛冶屋は様々な工程を分業制にし鍛冶屋自体も変化してきました。

もちろん、時代の流れの中で変化することは悪いことではありませんし、どちらかが正解というわけでもありません。勝秀鍛冶屋は昔ながらのやり方でひとつひとつの鉈と向き合って現在も制作しています。2代目松村のオンチャンから菊池さんご夫婦に、その技術や鉈と向き合う姿勢は受け継がれていっています。

さて、前置きが長くなってしまいましたが、制作作業をご紹介いたします!

刃をつくる作業

鉈の刃の部分は「鉄」と「鋼」の2種類の金属でできています。
鉄が土台部分で鋼が切れる部分とすると分かりやすいでしょうか?
まずは鉄を熱して叩き、形を作っていきます。

ある程度形を形成した後、鉄と鋼を接着し、再度叩いてこの2つの素材を定着させていきます。土州勝秀鍛冶屋では長く鉈が使えるように、鉄部分の真ん中くらいまでこの鋼を入れることをモットーにしています。

現在はそれほど差がない鉄と鋼の価格ですが、昔は鋼は仕入れ値が高く、1つの鉈にいれる鋼の量を少なくしていた鍛冶屋もあったのだとか。

なぜ鋼を多く入れることが良いのかというと、鉈を長く使うことができるようになります。
研いで使っていくと段々刃は短くなっていきますが、その際鋼が少ないとすぐに切れない鉄の部分が見えてきてしまいます。1代目(松村のオンチャンのお父さん)が制作した鉈が未だに使われていることから、その使用年数の長さは伺えますね!
他にも柄の部分まで鋼が入りますので、鉄だけの柄よりも強くなっているそうです!

今回は行いませんでしたが、最後に焼き入れ作業をして次は木工作業へ移ります。

木工作業

持ち手を担当するのは奥さん。

次の工程は、形が出来た刃の柄の形に合わせて持ち手を作っていきます。すべて同じように見える刃は、それぞれが厚さや長さなど微々たる違いがあるそうで、ひとつひとつ時間をかけて制作していきます。
丸太から切り分けておおまかに形成し、カンナをかけて整えていきます。

この滑らかな柄を見てください!
時間をかけて丁寧に作られているからこそ美しいですね・・・!

そして柄の形を良くご覧ください。なんだか独特な形ですね・・・!末広がりで下の方は八の字のような形をしています。他には無い形をしているんだそう。

昔は山師の人たちが自分の手に合うように木の部分を作っていたそうで、鍛冶屋は刃のみを販売していました。
今から約30年、40年前から刃と柄、鞘をすべて鍛冶屋で作るようになったんだとか。そこから柄の形が現在のものになったようです。

「山師の人らぁ(人たち)のリクエストがあったんじゃないかなあ?」

明確な理由は分からないようですが、私も少し持ってみた感じはこの形だからこそ、鉈の振りやすさを感じました!グリップがとても良いです。普段木を伐ることはないのですが、適度な重量感と柄のグリップの良さはなんだか虜になってしまいそうです!

工房内には使用する木材を吊るして保管しています。完全に乾くまで4年置くのだとか!
ここで使われる木の種類は様々で、5種類ほど扱っています。ふるさと納税の鉈で使用する木材は樫の木(カシ)で制作いたします。森林の多い四万十でも安定して入手することが出来、強度もあり適した素材です。

この木材、実は山師の方々に採ってきてもらっているんだとか!

鍛冶屋で山師さんの鉈を研ぐお代代わりに、貴重な木の材料を採ってきてもらって交換としているそうです。なんてwin winな関係でしょうか!

こんな関係も松村のオンチャンを見習って、若い山師の方やオンチャンの知り合いと繋がってできたそうです。色々な人に見守られ、助け合いながら成り立っているんですね・・・!

鞘の部分

これもひとつひとつの形に合わせて作るので、納めた時にぴったりと納まります。
綺麗な木目で角を取っているのですべすべで手になじみますね!

すべてを一か所で担うからこそより良いものを作る。

柄が出来た後は刃を研磨してすべてのパーツを組み合わせて完成になります。
刃と柄の部分を止める輪っか(輪というそうです。)のパーツも、クギもこの鍛冶屋で作っています。

これは輪というパーツ。
このパーツも刃に合わせているのでピッタリと合わさります。

打った刃に合わせて他のパーツを作るので、すべてがピッタリと合わさったときにその正確さが分かります。

隙間なくピッタリとはまっているのが分かりますでしょうか?
ここまで時間をかけて制作してきたからこその美しさです。

勝秀鍛冶屋の鉈はそのフォルムの美しさだけではありません!
ここまで手間をかけたからこそ丈夫にできています。
一般的に売られている鉈と、勝秀鍛冶屋の鉈とを比べてみるとその違いは一目瞭然でした。

左側:勝秀鍛冶屋 右側:一般的に普及されている鉈 同じ向きで撮りました。

「量産されている鉈は分業制だ」と前述しましたが、分業制だからこそ柄の部分は大きく切り込みを入れて差し込み、クギを2つ使い動かないように止められています。

この作りにしてしまうことの何がいけないかというと、振り下ろして使うときに、力を受け止める輪の部分が持ち手と合っていない。また、木の部分で覆われていないために、クギ2本で止めるしかない。しかし、それでも使っているうちに刃の柄の部分が下から徐々に出てきてしまうんだそう。それにより合わせがガタガタしてきてしまうようです。

量産して沢山売る時代へと変化するとともに、スピード早く沢山作って行くためには、このように変化せざるを得なかったんだと、教えて頂きました。

手間をかけて制作することと、時代に合わせて変化していくこと、そのどちらが良い、悪いなんてことは決められないですね・・・。鍛冶屋さんはこんな時代の流れに揉まれているなんて想像もつきませんでした。

銘切り

銘切りはどこも鍛冶屋さんで行っているものだと思っていましたが、実はこれも分業になっていたり、刻印に変わっていったのだとか!知らなかったです!

勝秀鍛冶屋ではもちろん銘も自分で入れます。菊池さんご夫妻も奥さまが銘切りをされているそうです。

オンチャンが切った銘を写しとって、専用の道具『鏨(たがね)』で銘を切ります。
これがなかなか難しいんだそう!素人目にも文字同士のバランスをとるのが難しいのが分かります・・。

これが「鏨(たがね)」。

こんなにちっさい道具で文字を入れてるんです!ひえ~~!
確かにこれは何回もしないと上手くならんね・・・。

勝秀鍛冶屋の精神は今松村のオンチャンから菊池さんに受け継がれていっています。
その道を極めるという思いと共に、より良い物を作るという熱い思いを感じることができました。

おまけ

「今こんなものも作ってるんだよ~!近所の子どもに言われてねぇ」

そこには『はじけろ!キク9(ナイン)』と書かれた木箱とコマが。

ご近所にお住まいの子どもたちにと、おもちゃを作成したのだとか!

遊び方はコマを指で弾いて動かし、コーナーに入れていき、相手のコマを多くとった人が勝つというルール。
ボードゲームを自作されていました!
この材料はすべて工房の廃材を使用しているんですって!

その後、完成した後は子どもたちの反応はどうやったんかな~?と気になります。^^