江戸時代から続く糀店

こんにちは!

今回の取材は12月に行いました。四万十町はここ数年は雪が降らないほど温かい冬だったのですが、今年は雪が舞ったり積もったり。寒い冬になりそうです。

私が向かったのは四万十町六反地。

この辺りは山々に囲まれた平地のため、湿気も多く霧が発生しやすい所です。

四万十ノのスタッフの一人が昔、影野に住んでいた時に「湿気で持ってた革靴が全部がダメになった…」と言っていました。

そんなさむ~い六反地に創業203年という老舗井上糀店があります。

井上糀店が創業したのは文政元年、西暦1818年になります。

なんと! 江戸時代の頃から続いているんです!

今から約50年ほど前の写真

初代、井上 喜久蔵という方が高知県高岡郡高岡町から今の高岡郡仁井田郷六反地新町に転居してきたことから始まるそうです。

長い歴史を持つ井上糀店7代目、井上 雅恵さんに、糀の魅力や作り方などを教えてもらいました。

昔ながらの米糀づくり

米糀というのは味噌やお酒などをつくるために非常に重要で、古くから作られてきました。

今は機械で大量に効率よく作れるそうですが、井上糀店では昔ながらの手作り製法で作り続けています。

簡単に米糀の作り方を説明すると、蒸した米を冷ましつつ、糀菌を米全体に混ぜ合わせます。60~70℃の熱で糀菌は死滅してしまうので、冷ます必要があるんです。

糀菌がついた蒸し米を2晩3日糀室(こうじむろ)で寝かせると、白くてふわふわとした糀菌が米を覆った状態になります。

このふわりとした糀菌が満遍なく米に広がっている状態を「糀の花が咲く」と言い、写真の様になるのが良い米糀の証なんだとか。

あとはそれぞれの用途に必要な大きさと重さに切り分けていきます。

この切り分ける作業を少し体験させてもらいましたが、完成した米糀は硬いのかな?と思いつつ切ってみると、意外にもサクサクと切り分けることができました。

感触はしっとりしたクッキーみたいで、このサクサク感はクセになる!と思って楽しく切り分けました。

効率化ではなく今のままを残す

今は味噌をスーパーなどで買うのが当たり前になっていますが、昔は「買い味噌は恥」と言われるほど各家庭で自家製味噌を作っていました。

その頃は井上糀店に行列ができる程、米糀を買いに来る人が多かったといいます。しかし、今ではお手軽にインスタントでみそ汁が作れるほど便利な時代になりました。

味噌の作り方を知らない方が今はほとんどではないでしょうか?

昔から続いていた糀文化は井上さんが幼少期の頃、既に下火になっていたといいます。

「学生の頃はこれから先、井上糀店はどうなるんやろう?って、漠然とした不安があったね。地域の人も自分で作る人が減ってきよったしね」

そんな思いを抱えつつ、井上さんは大学に進学した後、大手企業でエンジニアとして20年勤めました。

 

ある時、井上さんのおじい様とおばあ様の介護が必要になり、お母様が一人で続けてきた井上糀店を廃業しようかという話が持ち上がったそうです。

糀作りの加工場が小さい頃の遊び場所だったという井上さん。

豆を挽くのを手伝ったり、蒸し米をギューッと握っておにぎりにして食べさせてもらった思い出などがよみがえりました。

「幼いころから見てきた糀づくりの風景がなくなるのは、なんだかイカン気がする」

そう思った井上さんは2011年、井上糀店の7代目として井上糀店を継いだそうです。

7代目 井上 雅恵さん / 6代目 井上 征子さん

最初の頃は糀造りを発酵器で、大豆は釜戸で炊いていたのをガスの圧力釜で蒸して…と効率よく作ろうと考えていたそうです。業者の人に下見に来てもらい、設置場所も確認していたそんな時。

 

3月11日、東日本大震災が発生しました。

 

激しく揺れた地震の後、巨大な津波が押し寄せ、町を飲み込んで大きな被害を生みました。その光景をテレビで見た井上さんは考えを変えました。

 

「もしも、災害が起きたときに釜が残っていれば薪で火をおこせる。そうしたら、近所の人たちにご飯とみそ汁の炊き出しができる」

 

井上さんは場所まで決めていた圧力釜などの導入をやめ、今の姿を残した製法を守っていく事にしました。

今も現役で使っているかまど

「確かに薪を割らないかんからしんどいし、蒸し米を作るのにも時間がかかるのよ。人の手でやるからそんなに多くの量は作れんし。でも、これでいいやって。”いい、かげんで”いいのよ」

井上さんは朗らかに笑ってそう言いました。

この”いい、かげん”は井上さんが取材中よく口にしている言葉でした。

 

話を聞いていると、井上さんは継いだ当初「この長い歴史のある糀店を守らなくちゃいけない」と気を張っていた時期があったそうです。

そんな時、旅行先で県外の井上糀店より何倍もの歴史を持つ糀店を見て少しほっとしたそうです。

 

「なーんだ! こんなに歴史のある糀屋がまだあるんやから、うちは地域の人の糀屋としてやっていたらいいわって思ったの。下手にお金儲けや事業の拡大に走るよりも、地域の人に愛してもらえる井上糀店にしようって」

 

「いい、かげん」という言葉は、井上さんにとって気持ちを楽にしてくれるおまじないなのかもしれません。

自分たちで作るたのしさを広める

井上さんはこれまで毎月数回にわたって料理教室や味噌作り教室を開いたり、学校などに呼ばれて味噌づくりを教えていました。

今はコロナの影響でなかなか料理教室やマルシェといったものを開くことが難しくなっていますが、オンラインで料理教室を開いたりと、今の状況に合わせて教室を開いています。

料理教室で作った鶏むね肉の塩糀粥

そんな井上さんの味噌作り教室が開かれて1年ほど経過してから、完成した味噌を生徒さんが集まって食べ比べをすることがあるそうです。

 

「同じ材料、同じ場所で作っても全然違うの。兄弟で作った生徒さんがいて、お兄ちゃんの方はカビだらけになったのに弟くんはうまく作れたりするのよ~。

それに、他の人と食べ比べても味がぜんっぜん違うの。味噌作りは運の部分もあるけど、それがまた面白いところなのよ」

 

作り手の常在菌や保管場所など様々な要因が重なって、同じ材料で作っても全く味の異なる世界でたった一つのお味噌が完成するんです。

これは私もやってみたくなりました。自分で味噌を作れるなんて、誰かに自慢できますし! 

お手製味噌なら料理上手と褒めてもらえるかもしれませんね。

 

井上さんはお味噌以外にも塩糀もおすすめだといいます。

塩糀には、食材の旨味を引き出す力や肉を柔らかくする力があります。

井上糀店さんの塩糀を使って私も鶏むね肉の料理を作ってみましたが、「これは本当に鶏むね肉なのか!?」と思うほどにぷりっぷりの鶏むね肉でした。全くバサバサしていなくて、サラダチキンのしっとりさともまた違った柔らかさです。

鶏むね肉自体の美味しさも増しており、塩糀の塩味がほんのりとしているだけなのにぺろりと一枚を食べれるぐらいでした。

 

井上さんおすすめの塩糀の使い方は、塩糀をジップに入れたら食べやすい大きさに切った肉を投入。もみ合わせて冷蔵庫で30分~数時間または1日置いてから料理に使います。

食べやすい大きさに切って…

塩糀とお肉をもみもみ

たった30分だけでも肉は柔らかくなります。調理する野菜も一緒に入れておくと野菜の美味しさを引き出してくれるとのこと。

サラダチキンにして完成!

あとは煮たり焼いたり、蒸すなどしてお好みの調理をするだけです。

ビックリするほど味も柔らかさも変わるので、ぜひお試しあれ!

 

すぐに肉や野菜を使わない場合は材料と塩糀を混ぜ合わせ、少し時間を置いてから冷凍庫に入れます。

使う時はまた冷蔵庫に移してゆっくり解凍したり、レンジやオーブンの解凍機能を使うといいそうです。

塩糀を使うだけでほんのりと塩味がつくので、調味料としても使えるのが塩糀の嬉しいところ!

 

洋食にも塩糀は使えます。ポトフを作るのに塩糀を使ったり、グラタンにだって使えるんです。

井上糀店のHPにレシピがたくさん載っていますので、気になる方はぜひ見てみてください!

レシピページはこちらからご覧いただけます。

 

これからの井上糀店

取材の最後に、井上さんにこれからどんな井上糀店にしていきたいか聴くと、

「そうやねぇ~。今手伝いに来てくれてるのは親戚やったり、その親戚の友達とかなのよね。

もうみんな年配やから、ここの作業で身体を動かして、最後にお茶飲んでお喋りして帰る。そういう、人が集まって交流のできる場所が提供できたらいいかな。

この地域だけでも、そうやって集まって元気になれる場所があったら素敵じゃない?

一人、家で考え事ばっかりしてたらふさぎ込むじゃない。それを、ここにきて元気になってもらえたらいいなって思うの」

 

地域のための糀店、そう仰っていた通り、井上さんは地域の人が心も体も健康に過ごせる環境を考えているんだなと思いました。

地域を愛して、地域に愛される井上糀店だからこそ、美味しい味噌や米糀ができるんですね。

皆さんもぜひ、笑顔のあふれる井上糀店で作られた米糀を使い、自家製の美味しい味噌や塩糀を作ってみませんか?

井上糀店さんの塩糀は本当に料理に使うのが楽しみになるほど、素材の美味しさを引き出してくれました! だまされたと思って、ぜひ塩糀を使ってみてください。 料理の革命がおきるかも…!?
もろみ糀300g
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井上糀店の手作り味噌キット(野田琺瑯の容器付き)
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