こんにちは!

すっかり暖かくなり、四万十川も水温む今日このごろ。

 

ぽかぽか陽気につられて「そろそろ旅に出たいな・・・」と夢想していたら、タイムリーにも老舗・美馬旅館さんに伺うことができました。

 

お話ししてくださったのは、6代目館主の美馬勇作さん。

言葉の端々に「おもてなしの心」「まちを思う気持ち」「時代をとらえる目」「商売人としての才」、それに抜群の美的センスを感じる、多面的かつ魅力ある方でした!

 

時代が変わっても、灯り続ける明かり

美馬旅館さんは明治24年(1891年)創業、四万十町を代表する老舗旅館です。

窪川駅から徒歩7分。すぐそばには、四国八十八ヶ所第37番札所の岩本寺があります。

 

昭和初期に建てられた本館、平成の終わりに完成した「美馬旅館はなれ 木のホテル」の2棟からなる、まちのランドマークです。

「窪川は、県中央から県西部や宇和島(愛媛県)へ向かう際の分岐点。物や情報がいったんここに集まって、また方々へ伝わっていくというターミナルやったがよね。」

 

窪川には最も多いとき(昭和30~40年代)で30軒もの宿があったという話に驚いていると、美馬さんがそのわけを教えてくれました。

 

昔は交通手段も未発達だったので、宿毛市などの西部へ向かう場合は窪川で1泊してから先へ進む人が大半だったようです。

 

ひと昔前までは、常連の宿泊客同士でお酒を飲み、麻雀をやりながらの情報交換が盛んだったとか。今ではとても珍しい光景ですよね。

「昔はね、将棋・囲碁・麻雀の道具は絶対置いちょかないかんかった」とのこと。

それらが当時の娯楽であり、有用なコミュニケーションツールでもあったんですね。

明治、大正、昭和、平成、令和・・・時代が変わっても、疲れた体を引きずりたどり着いた旅人が、宿の明かりにホッとする気持ちはきっと同じ。

美馬旅館はここで130年もの間、その明かりを灯し続けています。

 

昭和初期の雰囲気がたまらない本館

かつて、遍路宿とそうでない宿がはっきり分かれていた時代があったそうです。

なかでも美馬旅館は高級旅館として知られ、敷居が高かったと聞きます。(今は「お遍路さん用プラン」も用意されていますよ!)

 

その本館は、当時の職人が腕によりをかけたであろう、贅を凝らした2階建ての木造建築。6つの客室があります。

 

 

作家・林芙美子さんなど多くの文化人も投宿した2階の大部屋は、二辺をぐるりと囲むガラス窓が開放的!現代ではもう使えない工法です。

木枠にガラス窓って、昭和レトロをぐっと感じますよね。

そして、どこもよく磨かれてぴかぴか!!

人気のヒノキ風呂も浴槽はもちろん、石の装飾や設備に至るまで、とにかくきれいです。

 

歴史は感じるのに古さ・暗さを感じないのは、行き届いたお掃除を毎日繰り返す、まさに「おもてなしの心」が成せる業だと感じ入りました。

 

モダンかつ、参道に”こじゃんと合ぅちゅう”雰囲気「はなれ 木のホテル」

打って変わって「はなれ 木のホテル」は、とてもモダンでシックなホテル仕様。

こちらはスイート1室を含む、7室があります。

 

四万十ヒノキを使った新しい工法で建てられていて、令和元年(2019年)にはウッドデザイン賞の特別賞【木のおもてなし賞】も受賞した建築なんだそうです。納得!

 

岩本寺への参道に面した開放的なロビーには、美馬さんのセンスで選び抜かれた調度品が。

実は美馬さんは25年前から高知市内で呉服店も営まれていて、歌舞伎界にお得意先を持つほどの審美眼をお持ちです。

 

とくに高麗屋とゆかりが深く、松本白鴎さん・松本幸四郎さん・市川染五郎さんの三代が揃った押隈も飾られています。

実はこちらに1泊させていただいたことがありますが、客室にも四万十ヒノキがふんだんに使われています。

 

これがですね。

優しい木の風合いに白壁が絶妙にマッチしていて、本っ当に居心地がよかったんです!!

(スイートのお部屋では、その白壁に何と「土佐和紙」が使われています)

 

 

それなりの数のホテルに泊まってきましたが、こんなに柔らかく明るくて居心地のいいお部屋、そうそうありません。(正味な話、ほんまに1位です。優勝。)

 

そして低反発で沈みすぎないマットレス、体を包むふかふかのお布団。

美馬旅館と聞くと「よく眠れたな」と後々思い出すほど、ぐっすり眠れました。

 

時代を超えて、物語を紡ぎ続ける

「築80年以上になるこの建物を何とか維持したいと、次代へつなぐ方策を考えています」

 

本館のお部屋をぐるり見回し、そう話す美馬さん。

曳家(ひきや)の技術で、いまの風情を出来るだけ残せる大改修を真剣に考えているそうです。

 

 

「昭和40年代は、毎晩10時の最終列車が着くがを待って仕舞いよったと。今とは違うて、駅へ降り立ってから初めて調べて、それから”部屋ありますか”っていう。飛び込みのお客様が圧倒的に多かった。」

「うちは昔はどっちか言うたら商人宿で、その頃は一回出張に出たらその地区をぐるーっと回らないかん訳やき。今みたいにピッピピッピ日帰りで行き回るがやないきよね。何泊もして帰るがが当たり前やったがよね。」

こんな時代時代のエピソードも、たくさん教えていただきました。

 

客層やそのニーズ、旅行スタイル、人との関わり方、周辺の環境、景気…。

あらゆることに変化があり、長く商いを続けるには、それらに対応し続けなければなりません。でも、軸がブレてはいけない。

 

それは例えば、周囲の宿が激減したことでお遍路さんが困らないよう専用プランを設けることであり、ホテルを新設することであり、大改修を考えること。

 

美馬旅館の130年間は、そんな強くしなやかな進化の連続でもあったと思います。

そしてそこには常に「おもてなしの心」が貫かれていて、窓の手すりは今日もきっとぴかぴかです。

 

大改修が実現したら、何とその様子をドローンで空撮して公開したいという野望(笑)もあるという美馬さん。

また1つ紡ぎだされようとしている次の物語、とても楽しみです!

 


▼お食事について

現在都合により、ご夕食の提供を休止しています。

近隣には「割烹たけち」「満洲軒」「古梵 (ふるぼん)」をはじめ、地元住民にも人気の飲食店がいくつかあります。ご宿泊の際には、ぜひお問い合わせください。

 

 

旅先では観光地や名所をできるだけ訪れたい!と、ついつい予定を詰め込みがち。 宿は寝るためだけのもので、滞在は正味8~9時間くらい・・・。 そんなパターンの人、わりに多いんじゃないでしょうか?私もその1人です。 でも美馬旅館さんでは「ここは滞在することこそが体験だ」と、強く感じました。 インプットの多い旅行ももちろん楽しいけれど、たまにはただそこに滞在して、ゆっくり放電するような時間を過ごすのもかなり良さそう。旅のあり方を見直したくなったことでした。