1人の女性がゴトゴト手作り。地元産のこだわり調味料「しまんと糀工房」
こんにちは!
今回の取材先は、四万十町峰ノ上にある「しまんと糀工房」さん。
国道56号線から少し入った山のふもとで、その名のとおり糀(こうじ)と糀製品を作られています。
糀・・・!
まさに体に良さそうなアレですね!
こんにちはー!!(大声)
四万十町産のお米で、「糀」を手作り
工房に併設されたご自宅から、「はーい」とにこやかに出迎えてくださったのは代表の松原香代さんです。
松原さんは糀、塩糀・醤油糀・黒塩糀、お味噌といった糀製品から、焼肉のたれ、どぶろくやプリンまで多岐にわたる商品をお1人で生産されています。
それらを製造するには色々と営業許可が必要なのですが、そのうちの許可の1つで飲食店かと勘違いした有線放送の営業マンが、福岡から訪ねてきたこともあったとか!笑
(そして私は伺うまでてっきり数人で運営されているものと思っていたので、お1人と聞いてものすごく驚きました)
さっそく松原さんに糀の作り方を尋ねると、上手な人が道順を教えるようにぽんぽんぽんと教えてくださいました。
まず「糀」とは、蒸したお米にこうじ菌をつけて発酵させたもの。
松原さんの使うお米は地元・峰ノ上で栽培された、いわば身元のしっかりしたお米。原材料から安心できます。
(ちなみにお米で作ったものだけが「糀」で、「麹」はお米以外にも麦や豆で作ったこうじ全般を表すそうです)
糀の作り方をごく簡単に言うと、
①浸水させたお米を蒸してからこうじ菌をまぶし
②温度管理をしながら途中2回ほど混ぜ
③さらに温度管理しつつ発酵が進むのを待って、できあがり!
というもの。
お米を蒸してからできあがりまでは、約48時間ほどかかります。
微生物であるこうじ菌が温かいお米にまぶされることで繁殖し、お米を分解していくことで発酵が進んでいきます。
お米の表面や割れ目に、ふわふわと菌糸を伸ばしているのがこうじ菌です。
「発酵の進み具合は、毎回ちょっとずつ違うんですよね。思うちょったがと違うようになることもあります」と笑う松原さん。
混ぜるタイミングや発酵時間などは糀の様子を見ながら、長年の経験と10年以上蓄積されたデータをもとに決めているそうです。
見せていただいたノートにはこれまで作った糀の発酵時間や温度など、細かいデータがびっしり書き込んでありました。
ミネラルたっぷりの天日塩がもたらす”まろやかさ”の「塩糀」
「塩糀」は、そうしてできた糀に塩と水を合わせ、かき混ぜながら数日置き、ミキサーにかけたものです。
塩糀は肉、魚、野菜と幅広い素材に使え、その味を豊かにするので「万能調味料」ともいわれますね。
お肉を柔らかくすることでも知られていますが、それは塩糀に含まれる酵素がたんぱく質を分解するから。
しかもたんぱく質を分解するときに「アミノ酸」が出るので、うま味がグッと強くなり味が豊かになるんだそうです。
うーん、うまくできてます!!
松原さんの塩糀は、黒潮のミネラルをたっぷり含む「天日塩」が使われているのが大きな特長。
精製塩で作るものに比べて、まろやかな仕上がりになるそうです。
塩糀だけをなめてみると、しょっぱいもののトゲトゲしさは無く、丸く複雑な味といえばいいでしょうか。
しょっぱみ以外のいろんな味がじんわりと舌に広がって、確かにこれは素材の味を引き出してくれそうな感じがします!
「天日塩」との出会いと、「もっと美味しく」の繰り返し
実は塩糀にも使われているこの「天日塩」が、松原さんが”今”に至る大きなきっかけでした。
松原さんは、生まれも育ちも峰ノ上。
中学・高校時代と卒業後の数年を高知市で過ごした後に帰郷し、以来40年近くこの峰ノ上で暮らしているそうです。
— ずっとこのお仕事をされてきたんですか?
「いえいえ。ここに戻ってきてからは、いろんな仕事をしてました。保険会社の事務からセールス、製材所の事務や工場…。」
— 全然違うお仕事だったんですね。何がきっかけで、この工房をされることに?
「まだお塩の専売制度がある時代に、たまたま天日塩を作りゆう人との出会いがあって。その人が天日塩で味噌を作ったらうまいぞ、って言うてね。それでそのお塩を分けてもらって、味噌を作り始めました。40歳くらいですかね。まだ他の仕事をしゆうときです。」
松原さんちでは昔からおばあちゃんが作っていた自家製のお味噌を、お母さんが受け継いで毎年作っていたそうです。年末には、お歳暮代わりに配ったりしたんですって。
そこに、天日塩との出会い。
お母さんの「うまいぞ」も後押しとなり、松原さんもお母さんから教わってお味噌を作り始めました。
製材所の仕事へ行く傍ら、試行錯誤を重ねつつお味噌を作ること約6年。晴れて製造業の許可を取り、地元のお店に出品を始めたそうです。
でも、ここまでは珍しい話ではありません。
高知県内の直販所には、個人の方が製造されたお味噌や漬物もよく並んでいます。
松原さんはなぜ、工房を立ち上げて数種類もの製品を生み出し、それが町内の大手スーパーや道の駅に置かれたり、ふるさと納税の返礼品として扱われるところまでたどり着いたんでしょうか?
このニコニコ穏やかな女性のどこにそんなパワフルさがあるのか…と思いながらお話を伺っていると、松原さんがたびたび「どんなふうにすればいいかなーと思って」「試行錯誤して」「面白そうで」と口にされることに気づきました。
松原さんは最初のお味噌作りから、その後新しい製品を作りだすとき、改良を重ねるとき、必ず「どんなふうにしたらもっと美味しくなるろう?」への強い興味がわいています。
それは「どうしたらもっと人に喜んでもらえるか?」という、こどものように純粋な気持ちです。
”温度か、量か、時間か、それとも回数やタイミングか、どこをどういうふうにしたらえいろう?”
”これを作ったら喜んでもらえるがやないろうか?”
そうしてトライを繰り返ししてきたことが、松原さんの言葉の端々、びっしり付けられたノートや資料からしみじみ伝わります。
強烈な行動力やバイタリティというよりも「どうしたらもっと喜んでもらえるろう?」という積み重ねが、松原さんの「今」を作る大きな要素なんだと感じました。
おすすめ塩糀レシピ
塩糀は万能調味料とはいえ、あまり使いこなせていなかった私。
ここぞとばかりに松原さんから教わった、塩糀おすすめレシピをご紹介します!
▼ひと味違う!!鶏唐揚げ
材料:
鶏肉に対して、5%の塩糀、5%の焼肉のたれ。(お肉が300gなら、塩糀・焼肉のたれがそれぞれ15gずつ)
作り方:
お肉に塩糀とたれを揉みこんで冷蔵庫で1日置き、揚げます。
衣やお肉の部位はお好みで大丈夫です。
私は鶏もも肉にすりおろし生姜も少し足して、片栗粉で揚げました。
しっかり味なのに塩味が強すぎず、しかもお肉は本当に柔らかくて、めちゃくちゃおすすめ!
ちなみに松原さんの焼肉のたれは、ご自宅の裏にドーンと広がる畑で獲れたニンニクが使われていますよ~。
▼超簡単!!鶏むね塩糀漬け
材料:
鶏むね肉に対して、10%の塩糀(お肉300gなら、塩糀30g)。
作り方:
鶏むね肉をそぎ切りにし、塩糀を揉みこんで冷蔵庫で1~2日ほど置く。
耐熱皿に並べてラップをかけ、レンジ600Wで5分くらいチン。
私は茹でて調理しましたが、めちゃくちゃ柔らかいうえにヘルシー!そしてうま味のあるサラダチキンとしても使えて便利ですよ!
ほかにも白身魚の切り身に塗って半日ほど冷蔵庫で寝かせて焼いたり、水・酒・塩糀でお鍋のスープにも。
本当に色々使える調味料でした!
インターネット上でもたくさんレシピが出ているので、ぜひ試してみてくださいね。